ラジカセ以上ハイファイ未満

ミニコンポにつないだLS3/5Aで聖子ちゃんを聴く

J.S.Bach: フーガ イ短調 BWV947

ある夏の暑い晩、FMラジオから流れてきた清涼な音色に一目(耳)惚れ。小遣いを握りしめてレコード屋に走った人生初のLPがモダンジャズ・カルテット(MJQ)とローリンド・アルメイダの『コラボレーション』(1964年)でした。そこで「フーガ イ短調」を知ったので、この演奏が原曲として刷り込まれてしまいました。

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いろいろな「フーガ イ短調」を聴いてみたいと思いますが、まずは正統派のチェンバロでの演奏。

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次はピアノで。

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重々しいパイプオルガン。

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かなり変わり種、エレキギターによる演奏。ギュイーン。

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胎教なのか、英才教育なのか。

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変わったのが二つ続いたので、ストリングスでお耳直し。

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最後は、リュートみたいな素敵な音色のチェンバロで。

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以上、煮ても焼いてもバッハはバッハでした。

「風立ちぬ」の1/20〜 大瀧詠一の聖子ソング

ちょっと前に" 歳を取れば音楽は深まるのか? - ラジカセ以上ハイファイ未満 "を書いてから、引っかかっていたのが"深まる"という言葉でした。"深い"とはどういうことなのか。

辞書には次のように説明されています。

1 表面から底まで、また入り口から奥までの距離が長い。

2 物事の程度や分量、また、かかわりなどが多い。

3 色合いが濃い。「空の青さはどこまでも―・い」

4 密度が濃い。また、密生している。

5 かなり時がたっている。また、盛りの時期にある。たけなわである。

6 多く「…ぶかい」の形で、名詞、またはそれに準じる語に付いて接尾語的に用いる。

深い(ふかい)の意味 - goo国語辞書

私は2のつもりだったのですが、3や4にも解釈できてしまい、たいへん曖昧です。そこで今回は、改めて2の意味での"深い"音楽について考えてみたいと思います。

 

以前にも引用させていただいた次の論文の、1/3ぐらいのところにある記述。

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だから、書き手から読者への「コールサイン」はつねに「ダブル・ミーニング」として発信される。
表層的に読んでもリーダブルである。
でも、別の層をたどると「表層とは別の意味」が仕込んである。
その層をみつけた読者は「書き手は私だけにひそかに目くばせをしている」という「幸福な錯覚」を感知することができる。

すぐに見える表層だけではなくて、その下に隠された別の層がある。そういった層が何層も重なっていれば、文字通り"深い"と言えると思います。

これを音楽に当てはめてみると、まず耳に入ってくるメロディーを聴いて、それが美しいとか悲しいとか何かしらの印象を持つのは普通のことでしょう。でも、そのメロディーの音高がB-A-C-Hという順番で書かれているとすれば、絶対音感を持つ人にだけ、そのメロディーの持つ別の意味が分かることになります*1

あるいは、ベートーベンの「英雄交響曲」の冒頭の二つの和音。何も知らなければ曲の開始の合図としか思えませんが、モーツァルトハイドン交響曲の開始部分にゆっくりとした序奏が付いていたことを知っていれば、冒頭の二つの和音が序奏に相当するものだという解釈も可能になります。事実、二つの和音を重々しくゆっくりと演奏した後にそれよりも速いテンポで第一主題を開始する指揮者もいます。

さらに、マーラーの第1交響曲の冒頭を初めて聴くとまるで耳鳴りのように思いますが、クラシック音楽ファンならベートーベンの第4交響曲からの引用であることに気付くかも知れません。(マーラーは第5番もジャジャジャジャーンで開始しています。)

こういった具合に、読み解けば読み解くほど、作曲者が意識的あるいは無意識に楽曲に潜ませたリンクが重層的に立ち現れてくる作品が"深い"作品であり、そういったことをリスナーにそっと気付かせてくれるのが"深い"演奏だと考えられるのではないでしょうか。少なくとも私はそう理解しています。

 

さて、実はここまでは前書きで、ここからがテーマです。上に挙げた論文の中に次のような一文があります。

音楽の世界では大瀧詠一師匠がこの「本歌取り」の大家であることはご案内の通り。
なぜ「ナイアガラー」という熱狂的で忠実なオーディエンスが大瀧師匠の場合に発生するかというと、この「本歌」のヒントを師匠は実にさりげなく楽節の隙間にさしはさむからである。
あ、このフレーズは「あの曲の、あそこ!」ということに気づいたナイアガラーは、これを発見したのは世界でオレ一人だ。このコールサインは師匠と私の間だけに結ばれた、余人の入り込むことのできない「ホットライン」なんだ・・・という陶酔感に深く久しく酔い痴れることが許される。
このような快感を組織的に提供してくれるミュージシャンは師匠の他にはいない。

大瀧詠一は引用の作曲家であり、ひとつの作品の中には少なくとも20曲からの引用があると自ら述べていました。その大瀧詠一松田聖子に提供したシングル曲が「風立ちぬ」です。

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当然この曲にも先行作品が20曲は存在しているはず。残念ながら古いポップスのことは全然知らないので自分で発見することは諦めて、いわゆるナイアガラーに教えていただいたのが次の曲たちです。

まずはイントロの出だし。

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イントロのメロディー。

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風立ちぬ」はサビから始まるので、そのサビの引用元。後の方の三連符アレンジも。wikipediaをはじめ、これが元ネタとされることが多いです。間違いではないけれど…

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これもサビ。

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サビの対旋律。

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カラオケだと、ストリングスで奏でられるサビの対旋律が分かり易いです。

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平歌の前半。

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平歌の後半、「SAYONARA x3回」=「汽笛が x3回」

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女声コーラス=「風立ちぬ」の1:22辺り。

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この曲の1:31辺りの伴奏の三連符アレンジ =「風立ちぬ」の4:38辺り。

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ここまでで、まだ9曲です。残りが少なくともあと11曲あるはずですが、今のところ判明していないようです(作曲者が正解を残さずに亡くなったため真相は不明)。ナイアガラーはまだまだ発掘を楽しめそうです。

真偽のほどはわかりませんが、「風立ちぬ」を聴いた外国のオールディーズマニアがビックリしたとか。それはそうでしょう、極東から伝来した一曲の中に20曲ものナツメロが詰め込まれていたのですから。

しかし、当時「風立ちぬ」を聴いていたリスナーの99%以上はそんなことは全く知らずに楽しめたということ、これが一番重要なポイントであることは強調しても強調しすぎることはありません。 

二、三ヶ月で聴き捨てられる消費音楽にこれだけ凝った作り込みをした大瀧詠一も凄いですが、その大瀧詠一をやる気にさせた松田聖子も凄かったという訳で、今回は「風立ちぬ」の深さについて実証してみました。

 

<追記>

この曲も1/20かもしれません。上に挙げた「Big Star」が平歌の前半で、そこに「Look for a Star」が絡むという洒落ではないでしょうか。"深い" !

イントロのピチカート=「風立ちぬ」の平歌の前半、繰り返し前のチェンバロ

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クラシックぽいBGM

茶店BGMの備忘メモの続きです。こちらはクラッシックぽいけど、さほど古くないもの。

 

カッチーニ作曲と偽って発表された曲だそうです。

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最近テレビで流れてヒットしたとのこと。

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同じ作曲者の似たような曲。 

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 映画音楽はオペラから地続きなのでクラシック風なのは当然かも。

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このルックスでこんな曲を弾かれたんじゃあ人類の半分を敵に回した福山雅治。半分を味方につけたとも言えますが。

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ヒストリカル音盤についての超マニアックな番組youtubeで配信しておられる作曲家・指揮者の徳岡直樹氏の新作。そろそろ正式録音がリリースされるようです。

www.youtube.com

 

ブラームス:交響曲第3番 冒頭1分間の名演を探せ!

よくコメントをくださる方とのお話の中でブラームスの第3交響曲が話題に上り、そういえばレコードやCDをあれこれと買った割には本当に気に入った録音というのはベルグルンド盤の他に何があったのか定かではないことに気がつきました。そこでこの際だから気合を入れてspotifyにある170種類!の録音の聴き比べをしようと思い立ちました。もちろん、全曲を聴き通すことはできないので、第1楽章の冒頭1分間程度だけの試聴です。私には、交響曲を音の構築物として捉えて各部分と全体との関連性を理解しながら聴くというような正しいクラシック音楽の聴き方は無理で、その瞬間に発生した音響が面白いかどうかという判断しかできないことを逆手に取った(開き直った)試聴方法です。もちろん、先入観が入らないようにspotifyのプレイリストを使って演奏者名を見えなくして試聴しました。

 この第3番はブラームスの英雄交響曲と言われるように冒頭から勇壮に開始する演奏も多いのですが、私にはその裏で半拍ずれて刻まれるビオラとそれに加勢する第2バイオリンをしっかりと聴きたいという、いささかひねくれた嗜好があります。これはもう理屈ではなくて感覚的なものです(下のスコア抜粋に赤枠で示す部分)。

 

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1分間とはいえ一気に聴き通すのは無理なので何回かに分けて聴いた結果、冒頭1分間大賞に輝いたのは、ウィリアム・スタインバーグ指揮/ピッツバーグ響とジェラード・シュワルツ指揮/シアトル響でした。(拍手)

しかしスタインバーグ盤は高音が強めの録音であるうえ、テープがワカメになった時のようなフラッターがあって、最初だけなら良いけど全曲を聴き通すには覚悟が必要です。この指揮者のストレートな芸風は好みに合っていて、ブル7や惑星のCDを愛聴しているので残念至極。

その点、シュワルツ盤は雰囲気の良い録音でスイスイ気持ちよく聴けます。ただし、もし某評論家氏が聴いたなら "こんなにナヨナヨした…(中略)…といえよう" くらいのことは言われかねない柔らかめの演奏です(直線番長スタインバーグとは対照的)。

 

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次点はたくさんあります。

ザンデルリンク(旧)、ヨッフム(ステレオ)、ギーレン、クーベリック(モノラル )、クーベリック(ステレオ)、サバリッシュ(モノラル )、ジンマン、マゼール、ラトル、アーノンクールサラステ、スラットキン、ツェートマイア、レヴァイン、オロスコエストラーダ、クーン、マズア、ネゼセガン、トランブレ、ダウスゴー <以上、順不同>

 

 トスカニーニフルトベングラーワルタークナッパーツブッシュクレンペラーなど大指揮者と言われる人たち、それに続くベームカラヤンバーンスタインショルティジュリーニアバド、メータ、バレンボイムムーティなどのビッグネームは、結果として全く引っかかりませんでした。

 

逆に、上の楽譜の赤枠部分はそれほどでもないのだけれど、なんとなく雰囲気で心惹かれたものもありました。

タバコフ/ソフィアフィル

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 ライタ/スロバキアフィル(注:不良音源でしたが、良好なものに差し替えました。)open.spotify.com

 

 カラヤンシェフの超高級料理よりもB級グルメみたいな演奏が好みであることが露呈してしまって自分でもちょっとショックですが、ブラインド試聴の結果なので受け入れるしかありません。(駄耳の極みといえよう。)

喫茶店のBGMから

一時期、目が良くなる3D画像という本が書店の店頭に並んでいました。例えば、下の写真をぼーっと眺めていると突然、"TOAST AND EGGS"という文字と卵が浮かび上がって見えます。

 

https://tkj.jp/bookimage/12460901_20051228123542.jpg

引用元: 宝島社 https://tkj.jp/bookimage/12460901_20051228123542.jpg

 

茶店でコーヒーを飲みながらニュースを読んだりしていると、それまで漫然と聞き流していたBGMの中からメロディーが浮かび上がってくることがあります。スマホに聴かせると曲名と演奏者を教えてくれるので便利です。これってヘンデルだったんだ。

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次も有名なメロディーですね。さすがヘンデル

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またヘンデルかと思ったら、これは民謡でした。紛らわしい。

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いかにもシューベルトしたメロディーですが、何の曲かとなると覚えてません。

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これはエルガーらしい長閑さ。

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以下は初めて聴いたメロディーです。こういうのを見つけると嬉しいですね。

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ケクランはぼんやりしたのが多いけど、チャーミングなのもあります。

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マスネーですね〜

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現代の作曲家でもこんなの書いてます。

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冒頭のアルペジオグラナドスの「オリエンタル」かと思ったら、初めて聴く曲でした。これはアルバム丸ごとギター伴奏の素敵なイタリア民謡集。

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以上、喫茶店で聴いたちょっと気になるメロディーの備忘メモでした。

 

 

 

Rogers LS3/5A 〜 キャビネットの共鳴

 手元にあるRogers LS3/5A 15オーム版(1983年)のキャビネットの内部には、家具製造業者と見られる"GREAVES OF SHEFFIELD LTD."のスタンプが押されていることから、イギリスで製造されたものと考えられます。

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15オーム版のキャビネット(1982年)

 

一方、11オーム版の方はスタンプは見当たりませんでしたが、伝聞によると当時はスペインで製造されていたようです。15オーム版も11オーム版も、吸音材のスポンジをめくるとビチューメン(瀝青)をウール?に染み込ませた制振材が内壁に貼られています。キャビネットを薄い板材で構成し制振材でチューニングするのがBBCモニターの特徴のひとつです。

 

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11オーム版のキャビネット(1995年)

 

 15オーム版と11オーム版のキャビネットの構造は同じであるものの、製造時期、製造者が異なることから、振動に対する共鳴の具合が違うかもしれません。これをオルゴールを用いて簡単に確かめてみました。オルゴールのムーブメントを裸で鳴らすとささやかな音しかしませんが、これを箱に接触させるとムーブメントの振動が箱に伝わってグッと音量が増します。

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キャビネットに載せたオルゴール

   15オーム版と11オーム版の天板、側板、裏板のそれぞれの中央付近にオルゴールを置いて鳴らした状態を録音し、スペクトル解析した二枚のグラフを重ねたのが次の図です。緑色が15オーム版、紫色が11オーム版、黒色は両者が重なり合った部分です。一番下の図を見ると、15オーム版の裏板の鳴きが2000Hz以下で大きいようです。元々こういう特性だったのか、それとも経時変化でこの個体だけがこのようになったのかは分かりませんが、両者の音の違いにある程度は影響しているかもしれません。

 

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天板の共鳴(緑が15オーム版、紫が11オーム版、黒が両者の重なり)

 

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側板の共鳴(緑が15オーム版、紫が11オーム版、黒が両者の重なり)

 

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裏板の共鳴(緑が15オーム版、紫が11オーム版、黒が両者の重なり)

 

なお、参考までに15オーム版2本(AとB)のスペクトル解析を重ねるとほぼ一致し、15オーム版と11オーム版とを重ねたときのような差は見られません。

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参考:15オーム版の天板A(緑)とB(紫)

 

たぶん、あなたの知らない松田聖子

今年の4月に歌手デビュー40周年を迎えた聖子さんは、アイドル時代に"ぶりっこ"(可愛い娘ぶりっこの略)と呼ばれていましたが、もちろん華奢で色白で可愛いだけで40年間も持つ訳がありません。そのフリフリドレスの陰にチラリと覗く何かを検証してみましょう。

 

まず、ファンの間では有名な動画「きみだけのバラード 」。これは持ち歌ではなくて、今は忘れ去られた東京国際音楽祭グランプリ曲のカバーです。2番が終わって半音上げのサビに入るところで、なぜか突然マイクにかかっていたエコーが消えて声が丸裸になります(2:17-)。ここからの歌い込みはまるで鬼神のようですが、苦しげな表情ひとつありません。それまで周到にカメラから逸らせていた視線を、♪捨てないで〜♪という歌詞に合わせて初めてカメラにぶつけてくるのも見どころです(2:39-)。当時は多忙すぎてほとんど練習していないんじゃないでしょうか。

https://www.youtube.com/watch?v=C_IqQp-i_zU

 

次は昼のバラエティ番組から。当時、喉の不調で危機を迎えていた彼女に対して、取り調べと称する露骨ないじめトークが繰り広げられた後に、演歌を歌えと無茶振りされたときの映像です。人気絶頂のアイドルに恥をかかせるつもりで歌わせた「みちづれ」。

https://www.youtube.com/watch?v=FkZkrWwVCdc 

 

 これも音楽番組での無茶振り。彼女は倍音成分が多いので声が高い印象がありますが、実際にはそれほど高音が出せる訳でもなく、音域が広い訳でもありません。それでも男性キーの「 北国の春」に、あえて地声で挑戦した映像がこちら。うろ覚えのところがちと残念ですが。

https://www.youtube.com/watch?v=IVIzReIL5IQ

 

カラオケ大会での「津軽海峡冬景色」。司会者が悪戯をしてカラオケのピッチをどんどん変えてしまうのですが、それに追随する反応の速さが見ものです(1:10-)。同業者は心中穏やかではなかったかもしれません。

https://www.youtube.com/watch?v=eg8KGvVxpqM

 

ここまで全て他人の曲でしたが、最後くらいは持ち歌で。聖子ちゃんのラジオ番組の最終回、ピアノ伴奏だけで歌ったアルバム曲です。ぶりっこボイスが堪能できます。

スリーピング・ビューティ

https://www.youtube.com/watch?v=LfYpMZuHu3I

 

 以上、何か見えましたでしょうか。え、凄くいいものが見えた? そりゃラッキーでしたね。なお、埋め込みができない動画もあったので全てURL表示にしました。ご興味あればyoutubeでご覧ください。

歳を取れば音楽は深まるのか?

以前の記事に書いたspotifyのプレイリスト機能によるブラインドリスニング(先入観を避けるために演奏者名を伏せて聴く)によってこの録音を見つけました。モノラル録音ですが、意外なほど鮮明でパートの分離も良いものです。というか、時代的にまだ録音機材の性能の制約があって、小編成のオーケストラで録音したのかもしれません。また、これもSPレコードの録音時間の制約のためか速いテンポで小気味よくサクサクと進みますが、スコアに書かれた表情付けはよく再現されていて最近の古楽器演奏に通じる感じもします。そして、演奏者名を見てびっくり。41歳(1940年)のバルビローリが指揮するニューヨークフィルでした。

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 バルビローリのブラームス第二番といえば、世評が真っ二つに分かれるウィーンフィル録音(1966年, 67歳)が有名ですね。日本を代表する音楽評論家吉田秀和によって酷評*1される一方で、レコード芸術誌などでは名盤としてよく取り上げられていました。リスナーの選ぶ名盤特集で一番人気だったことがあったかもしれません。なぜかspotifyに無いのでyoutubeのものを貼っておきます。 

 

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参考までに演奏時間を並べると次の通り。

1940年(41歳) 1 - 12:53 2 - 8:31   3 - 4:30 4 - 7:59

1966年(67歳) 1 - 15:37 2 - 10:28 3 - 5:42 4 - 9:58*2

 

もう一人、同じオーケストラの例。バーンスタインが44歳(1962年)でニューヨークフィルを振った録音です。

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 そして、64歳(1982年)でウィーンフィルを振った録音。

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 演奏時間は次の通り。

1962年(44歳) 1 - 15:13  2 - 10:08 3 - 5:14 4 - 9:30

1982年(64歳) 1 - 20:48 2 - 12:02 3 - 5:33 4 - 10:06 

1982年盤は第一楽章の5:20辺りで提示部を繰り返していることを考慮すると、第二楽章が2分近く長くなったことを除き、大きくは変わっていません。

 

こうして、この二人の指揮者の20年あるいは26年を隔てた録音を聴いてみると、両者とも歳を取ってからの方が、より歌謡性に重心を置いた演奏になっているように思いました。新盤はウィーンフィルということもあってオーケストラの音色の点では旧盤に優っているとも言えるのですが、それには録音が新しいことも有利に働いているはずです。そして、楽器が多くて複雑に書かれている箇所では、両者とも主旋律重視の新盤よりも対旋律にも気配りのある旧盤の方が音楽が立体的に聴こえて、ブラームスの言いたいことがよく分かるような気がします。

ということで、上記の例からは歳を取ってからの演奏の方が優れているとは一概には言えないように思います。少なくとも私の好みからすると両者とも若いときの演奏に、より魅力を感じました。 楽器奏者とは違って指揮者は音を出さない演奏家なので肉体的な衰えが分かりにくいのですが、オーケストラの楽員からどう見えるのかちょっと興味が沸きます。"奴さんが何を振ったつもりか知らないけれど、俺はブラ2を演奏したぜ"、てなもんでしょうかね。

*1:「私は、この演奏がまったく気に入らなかったのである。それはもう、初めの第一小節のチェロとコントラバスがユニゾンでd・cis・d-aとやる(譜例は引用せず)、その演奏からして、もう、いけないのである。どうして、こんなに重苦しいテンポではじめ、第二拍子に向かってクレッシェンドし、それから第三拍子でもディクレッシェンドするのか? こういう出だしのうえに、以後、どこをとっても、すべてが重苦しいばかりでなく不自然なのである。 <中略> それに、せっかくヴィーン・フィルハーモニーというすばらしい楽器を手にして、ブラームス の指揮に失敗するようでは、名指揮者もないものではないか!」〜『世界の指揮者』(新潮社)から引用

*2:1966年盤のタイミング情報は次のサイトより引用

https://www.discogs.com/ja/Brahms-Sir-John-Barbirolli-Vienna-Philharmonic-Orchestra-Symphony-No2-in-D-Major-Op73-Tragic-Overtur/release/8275780

 

遠い音 〜 「花時計咲いた」考

前回の記事の<追記>でチラリと触れた増4度は、一番"遠い音"です。例えば、ドレミファソラシドのちょうど真ん中に位置するファ#は、低いドからも高いドからも増4度(全音3つ)離れています。これがファだと低いドに近くなり(全音2つ半)、ソだと高いドに近くなる(全音2つ半)。だからファ#から一番遠いといえます。

低いド全音)レ(全音)ミ(半音)ファ(半音)ファ#(半音)ソ(全音)ラ(全音)シ(半音)高いド

 

あるいは、次の五度圏で見ると C Major(ド=ハ長調)から最も遠い位置にあるのが F# Major(ファ#=嬰へ長調)です*1

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/33/Circle_of_fifths_deluxe_4.svg/800px-Circle_of_fifths_deluxe_4.svg.png

 

なんでこんなにややこしいマクラを振ったかというと、聖子ちゃんの2ndアルバム『North Wind』に入っている「花時計咲いた」の話をしたかったから。すみません、ファン以外はご存知ない曲だと思います。

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 この曲の冒頭にはストリングスとピアノでロマンティックに演奏されるイントロが置かれていて、それが終わるとまた新たなイントロが始まるという珍しい構成になっています。ただのアイドルのアルバム曲なのに凝ってるな思って調べてみると、冒頭のストリングスの部分はホ長調(E Major)、新たなイントロの部分は変ロ長調(B♭ Major)で書かれていました。上の五度圏で見るとE Majorから一番遠い位置にあるのがB♭ Majorです。このイントロに続いて歌われる歌詞は、

♪〜遠い海を越えて行くかもめの群れ

空に浮かぶ白い船のようね

私のこと一緒に連れて行ってよ

そうよ あの人のいる街〜♪

 そう、この歌詞に登場する"あの人”は遠い街へ行ってしまったのです。彼との距離、そしてロマンティックな想い出との距離を、ホ長調(E Major)から一番遠い変ロ長調(B♭ Major)へつなげることで表しているのではないでしょうか。

この曲の編曲者は、聖子ちゃんのデビュー曲「裸足の季節」や3rdシングル「風は秋色」などの編曲を手掛けられた信田かずお氏です。真相を伺いたいような、伺いたくないような。

 

<追記>

次の記事には、私が重箱の隅をつつく自己満足的記事ばかり書く理由が見事に見透かされていて赤面してしまいますが、その通りです。(ここでは"作家"を"編曲家"に、"読者"を"リスナー"に、"本"を"作品"に、それぞれ読み替えてください。)

すぐれた作家はだから必ず全編にわたって「コールサイン」を仕掛けている。
すぐれた作家は「わかりやすいコールサイン」から「わかりにくいコールサイン」まで、無数のレベルで「めくばせ」を発信する。
そして、どのレベルのコールサインであっても、受信した読者は、自分は凡庸な読者たちの中から例外的に選び出された「幸福な少数」だと信じることができる。
それでよいのである。
真にすぐれた作家はすべての読者に「この本の真の意味がわかっているのは世界で私だけだ」という幸福な全能感を贈ってくれる。

内田樹の研究室「X氏の生活と意見」

http://blog.tatsuru.com/2008/05/19_1253.html

 

 

*1:上の方の、wikipediaから引用した五度圏の図は花時計に似ています。

そうだ、ゲンダイオンガクを聴こう 〜 ヴァレーズのアメリカ

エドガー・ヴァレーズ(Edgard Varese 1883-1965年)はストラヴィンスキー(1882-1971年)と同時代の作曲家ですが、なんだかずっと後の人のような気がするのは、最初に聴いたのがNHK-FMラジオ番組「現代の音楽」だったからかもしれません。何十年も前のこと、物置に放り込まれていた古い真空管ラジオを掘り出して自分専用に使っていました。(モノフォニックのニアフィールドリスニングの原点。カザルスの無伴奏チェロにもショルティのハルサイにもキースのケルンコンサートにも、これでめぐり合いました。)

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真空管ラジオ

当時でも「春の祭典」(1913年)は通常のクラシック音楽番組でかかるのに、ヴァレーズの「アメリカ Ameriques」(1920年)は"ゲンダイオンガク"としての扱いでした。どうやら本邦初演が21世紀に入ってかららしいので無理もありません。ネット上で確認できる実演は次の4回です。

幸いなことに、このうちの一回を体験できましたが、こういう巨大編成の曲は実演でこそ真価を発揮すると思います。お金はかかるし、観客は呼べないし、オーケストラの事務局としてはやりたくない曲目の筆頭かもしれませんが。

 

そうは言っても上演や録音の機会は少しずつ増えているようで、spotifyで検索したら16種類もあります。全部聴いたわけではありませんが、気に入ったのはマイケル・ティルソン・トーマス指揮サンフランシスコ響のライブ。何が良いかというと、曲が終わった後の観客の歓声が素晴らしい(笑)

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spotifyアメリ

 

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"アメリカ"は、ちょっと聴くと"ハルサイ"のパクリです。冒頭のフルートからしてそうですが、聞いたようなモチーフが色々と登場します。しかし、"ハルサイ"が強烈なビートを持つ古代の儀式だとすれば、"アメリカ"はランダムノイズ的な現代の都会の喧騒。ビートはすぐに断片に分断されてしまい、聴衆はノリを共有できません。"ハルサイ"に良く似た姿の、"ハルサイ"から最も遠い音楽・・・なんて書いたら東京ビートルズを思い出してしまいました、ビートルズによく似た姿の、ビートルズから最も遠い音楽を。

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 <追記>

プロギタリストの長谷川平蔵さんのブログに、"バルトークの「増4度近親理論」"という言葉が載っていました。調性音楽で最も遠い調は増4度ですが、意外にも代理関係があるということのようです。遠いものは良く似ており、良く似ているものは遠い。なかなか示唆に富んでおります。

https://ameblo.jp/hisashi-bossa-nova/entry-11625437458.html

 

 

 

 

spotifyでブラインドリスニング

クラシック音楽を聴く楽しみの大きな部分を占めるのが聴き比べでしょう。特に録音で聴くのであれば。しかし、小生などは先入観のかたまりみたいなものですから、演奏者名が表示されていれば耳で聴かずに目で聴くことになります。


そこで思いついたのが、spotifyの検索機能とプレイリストのランダム再生機能を活用したブラインドリスニング。あらかじめ検索機能で同曲異演を見つけて一曲ずつプレイリストに登録しておき、十分な曲数が集まったらランダム再生モードに設定する。これで、次に再生されるのがどの演奏者のものか全くわからなくなります。そうして気に入ったり気になったりする演奏があればハートマークをクリックして印を付けておく。リストに演奏者名が表示されないのは普段は使いにくいけど、ブラインドリスニングには向いています。
 

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spotifyのプレイリスト

このプレイリストの写真はブラームス第2交響曲第4楽章を集めたものです。この中に気に入った演奏があったので演奏者名を見ると、アーノルド・カッツ指揮ノボシビリスク・フィルという誠に怪しげな音源*1。駅売りCDによくあった幽霊指揮者・覆面オケかと思って検索したら実在でした。"シベリアのカラヤン"という称号?もあるようですが、小生の耳はカラヤン盤をスルーしてカッツ盤に引っかかりました。カラヤンごめん。 アルノルト・カッツ - Wikipedia

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そして、なんとyoutubeにブラ2の実演が上がっていました。十八番なんでしょうか。小生が見たときにはupから7ヶ月で再生回数はトホホの48回でした。体育館みたいなところでの演奏*2。棒の動きは小さく基本的にテンポは動かさない堂々たる指揮ぶりです。ブラボー!

なお、第一楽章の提示部の繰り返しは実演では省略しています。

 

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*1:spotifyには複数の音源があるが、上に挙げたもの以外は変調ピロピロ音が入っていてNG。

*2:天井からマイクが4本ぶら下がっていて、なぜかチェロの音が大きく録音されている。

偉大な交響曲の素敵?な編曲

 前回の記事で引用したBBCミュージックマガジンの 史上最高の交響曲20 は、いろいろと弄り甲斐のありそうなリストですので、さっそく活用させていただきます。

交響曲のアレンジというとピアノ編曲が多いようですが、そうでないものもありますね。今回はピアノ以外の楽器のための編曲で、思い出したものをSpotifyで集めてみました。まだ他にもいろいろあるのではないかと思いますので、ご存知でしたら教えていただけると嬉しいです。

 

01 - Beethoven 3
02 - Beethoven 9
03 - Mozart 41
04 - Mahler 9
05 - Mahler 2
06 - Brahms 4
07 - Berlioz Symphonie fantastique
08 - Brahms 1
09 - Tchaikovsky 6
10 - Mahler 3
11 - Beethoven 5
12 - Brahms 3
13 - Bruckner 8
14 - Sibelius 7
15 - Mozart 40
16 - Beethoven 7
17 - Shostakovich 5
18 - Brahms 2
19 - Beethoven 6

20 - Bruckner

引用元:BBCミュージックマガジン  指揮者151人が選ぶ「史上最高の交響曲20」(2016年9月号)https://www.classicaltyro.com/blog/files/20-greatest-symphonies.html

 

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ブラームス好きなら第1と第4?

指揮者のピエール・モントゥは終生ブラームスを敬愛しており第2交響曲を聴きながら亡くなったという投稿を某SNSで見かけて、"本当のブラームス好きなら第1と第4" という説を思い出しました。たしか15年か20年ほど前、当時盛んだったBBS「クラシック井戸端会議」か「クラシック招き猫」の話題だったような気がしますが、定かではありません。なるほど、私の場合ブラームスは曲次第だし、交響曲なら第2と第3だと思ったので印象に残っているのです。

ブラームス愛好家かどうかはさておき、世間の評判はどうなっているのか調べてみましょう。

まずは、BBCミュージックマガジンの指揮者151人による交響曲20選。151人にはズビン・メータサイモン・ラトル、レナード・スラットキン、マリン・オールソップ、アンドリュー・デイビス、アラン・ギルバートといった有名人も含まれています。

01 - Beethoven 3
02 - Beethoven 9
03 - Mozart 41
04 - Mahler 9
05 - Mahler 2
06 - Brahms 4
07 - Berlioz Symphonie fantastique
08 - Brahms 1
09 - Tchaikovsky 6
10 - Mahler 3
11 - Beethoven 5
12 - Brahms 3
13 - Bruckner 8
14 - Sibelius 7
15 - Mozart 40
16 - Beethoven 7
17 - Shostakovich 5
18 - Brahms 2
19 - Beethoven 6

20 - Bruckner

引用元:BBCミュージックマガジン  指揮者151人が選ぶ「史上最高の交響曲20」(2016年9月号)https://www.classicaltyro.com/blog/files/20-greatest-symphonies.html

 

それではアマオケ奏者はというと、

01 - Tchaikovsky 5

02 - Brahms 1

03 - Brahms 4

04 - Rachmaninov 2

05 - Beethoven 9

06 - Dvořák 9

07 - Dvořák 8

08 - Tchaikovsky 6

09 - Brahms 2

10 - Berlioz Symphonie fantastique

11 - Saint-Saëns 3

12 - Beethoven 5

13 - Mahler 1

14- Sibelius 2

15 - Shostakovich 5

16 - Beethoven 3

17 - Tchaikovsky 4

18 - Mahler 5

19- Dvořák 7

20 - Bruckner 4

引用元: ロマン派音楽研究会 ROMUVE 「アマチュアオーケストラ奏者が好きな交響曲」(アンケート期間 2017年4月〜2018年4月)https://romatik-musik-verein.jimdofree.com/sitemap/

 

そしてコンサートゴーアは、

01 - Dvořák 9 

02 - Brahms

03 - Mahler 1 

04 - Tchaikovsky

05 - Bruckner

06 - Beethoven 9 

07 - Shostakovich 5 

08 - Schumann

09 - Beethoven 5

引用元:新日本フィル「あなたが選ぶベスト交響曲」(アンケート期間 2015年5月〜11月)http://classic.xii.jp/wp/news/?p=3238 

 

結果は、聴かせたい人(指揮者)と弾きたい人(アマオケ奏者)と聴きたい人(コンサートゴーア)全ての支持を得たのが第1番、次いで演奏側(指揮者、アマオケ奏者)の支持を得たのが第4番と第2番(ただし第2番は第4番よりもかなり下)となりました。

つまり、特にブラームス好きじゃなくても、第1≒ 第4 > 第2 >> 第3の順でした。普通なら映画に使われた第3番が一番人気になるはずですが、ブラームスではダントツの不人気とは。どんだけダメな奴なんだ。

ブラームス愛好家は第1、第4なんか聴いてる場合じゃなくて、なんとかして第3を救わなければなりません。第3普及委員会発動せよ!

 

<追記>

ローリングストーン誌のプログレシブロックアルバム50選の10位に選ばれたイエスの『こわれもの』にはブラ4第3楽章のキーボード多重録音版が入っていますが、これが妙にリズムの切れの悪い演奏になっているのは何かクラシック音楽を揶揄する目的でもあるのかと勘ぐっております。

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www.rollingstone.com

 

モノフォニック再生の魅惑

オーディオ製品の歴史を調べてみると、エジソンの蓄音機の登場が1877年、全電気式蓄音機*11926年、LPレコードが1948年、ステレオ盤の量産が1957年ということですから、モノラル録音の歴史は80年以上あります。クラシック音楽の分野ではフルトベングラートスカニーニワルターといった巨匠の全盛時代であり、ポピュラー音楽でもプレスリービートルズが登場した時代であり、音楽好きならモノラル録音を避けて通ることはできません。

 Wikipediaによれば、"1個のマイクロフォンで収録した音を1個のスピーカーで再生すること" をモノフォニック再生というそうです。一方、"ステレオ音源に対比して単一の信号音源を出力する方式である。スピーカが単一又は複数にかかわらない" のをモノラル再生というそうです。ということは、上記のモノラル録音を1個のスピーカーで再生する場合はモノフォニック再生、2個のスピーカーで再生する場合はモノラル再生。ステレオ録音の両チャンネルをミックスして単一の信号音源として再生する場合はスピーカーが1個でも2個でもモノラル再生。ややこしいけれども、厳密に言えばそういうことになります。

しかし、現在では2個一組のスピーカーの使用が一般的であることから、それと区別するために、ここでは1個のスピーカーで再生することを(ステレオ録音のモノラルミックスの再生を含めて)モノフォニック再生と呼ぶことにします。

 

モノラル録音音源を再生する方式として、当時と同様に1個のスピーカーで再生するモノフォニック派*2と、そうではなくてステレオ録音同様に2個のスピーカーで再生する派*3と、二つの流儀があります。しかしこれはどちらか一方に固執せずに、録音の内容によって好みの再生方式を選択するのが良いと思います。例えばボーカルや楽器の独奏はモノフォニック再生が、オーケストラやバンドなど拡がりの欲しい演奏は2個のスピーカーでのモノラル再生が、それぞれ適しているような気がします。

モノフォニック再生の留意点としては、脚注2のサイトに詳述されてるように、使用する1個のスピーカーをリスナーの正面に置かずに斜めに置くのが望ましいという点があります。好都合なことに、通常のステレオリスング用のスピーカー配置のままアンプのバランス調節つまみを右か左のいずれかに目一杯回すことで簡単に実現できます。(残念ながらアンプにバランス調節つまみが付いてない場合は片方のスピーカーケーブルを外すか、バランス調節つまみの付いたアンプに買い換えましょう。) 

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机の隅に置いた1本のスピーカーでのモノフォニック再生

 実はここまでは長い前振りで、本題はステレオ録音のモノラル化です。わざわざそんなことをする必要があるのかと思われるでしょうが、脚注2のサイトにはちゃんと詳述されています。左右のチャンネルの信号を単純に足すだけの変換コネクタについて引用させていただくと、

このうち1の変換コネクターは、一番安価で簡単な方法なのだが、誰もが失望するのは、高域が丸まって冴えない、音に潤いがない、詰まって聞こえるなど、ナイことずくめで良い事ないのが普通である。この理由について考えてみると
1.ステレオの音の広がりを表す逆相成分をキャンセルしているため、響きが痩せてしまう。
2.人工的なエコーは高域に偏る(リバーブの特徴である)ため、高域成分が減退する。
3.ステレオで分散された音像が弱く、ミックスすると各パートの弱さが露見する。
4.逆に中央定位する音は音量が大きく太った音になる。

 

一般的にはそうなんですが、左右の信号を単純に足しただけの特徴がむしろプラスに働くタイプの録音もあるはず。個人的には、マルチモノ録音の歌謡曲がそうだと思います。左右に振り分けられた伴奏やエコー成分は減衰するけれども、中央のボーカルは元のまま保たれるので、結果としてボーカルの音量がやや上がったように聴こえます。これをスピーカー1個でモノフォニック再生して近接聴取(ニアフィールドリスニング)すると、まるで小人の歌手がスピーカーキャビネットの中で歌っているような具合に聴こえて実に生々しい。この"生々しい"というのは、ブラインドテストで再生音を実際の人間の声と間違えるといったHiFi的な生々しさではありません。実在しない小人を想像して、その小人が実際にここにいるみたいだという架空の生々しさ。小人なんだから音量は控え目で。そう、なんのことはない、この聴き方は深夜ラジオの聴き方ですね。

 

そして、モノフォニック再生の欠点というか利点というか、スピーカーの性能の優劣が如実に現れてしまうという事実があります。下のグラフはブラインドテストで被験者に三種類のスピーカー(Rega, KEF, Quad)を聴かせて、音質と空間感についてそれぞれ10点満点で主観的に評価させた結果です。中央より左側がモノフォニック再生、右側がステレオ再生で、さらにそれぞれの左側が音質評価、右側が空間感評価です。小さい黒丸は個人毎の評価結果、大きい四角はそれらの平均値を表します。これを見るとモノフォニック再生では音質も空間感もRega > KEF > Quadという優劣が明らかですが、ステレオ再生では優劣の差はずっと小さくなっています。つまり、ステレオにすれば劣った装置でもそれなりに良い音に聴こえてしまうということです。ステレオ方式がここまで普及した理由の一つかもしれませんね。

 

https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?attachments/8neklhc-png.64538/

引用元:Floyd Toole (2008),  "Sound Reproduction"

 

 逆に、モノフォニック再生のためのスピーカーはシビアです。容赦無く素顔がバレてしまいます。スピーカーを買うために複数の機種を比較試聴するときには、モノフォニック再生するのが良いみたいです。ちなみに試聴用音源としてピンクノイズ、吹奏楽、ロックを使うと評価し易く、小編成のジャズはダメだそうです。先入観とは逆に、やかましいロックは優秀なスピーカーを必要とし、アコースティックなジャズはスピーカーを選ばないということになります。(ジャズファンにオーディオマニアが多いのは、俺流でもそこそこ良く聴こえるシステムに仕上げることができるからかもしれませんね。ミリ単位で調節するそうですが。)

 

*1:ちなみに最上位機種は$1,200、現在の貨幣価値に換算すると370〜390万円程度。現在のハイエンドに比べると一桁も二桁も安い!?

*2:『20世紀的脱Hi-Fi音響論』http://quwa.fc2web.com/Audio-108.html

*3:『オーディオ・マスターファイル』http://www.audio-masterfiles.com/masterfiles/file04/file04-1.html

苦手な作曲家

あるSNSを眺めていたら苦手な作曲家というトピック上がっていて、予想通り、私の好きな作曲家が苦手と言われたら気分が悪いのでそんな話題は止めてほしいという旨の反論が出ていました。是非はともかくとして、苦手というのは聴き手側の問題だろうし、芸術作品としては全く関心がないと言われるよりは大分マシな気がします。何か届いてるものがある訳なので。

 

恥ずかしながら小生はショパンが少々苦手なのですが、以前にコーヒーチェーン店で記事を読んでいるときに、それまで背景音にすぎなかったBGMの中から突然立ち上った曲がありました。ショパンだろうとは思いましたが、曲名はわかりません。翌日も同じ時間帯に行ったら同じ曲がかかったので、慌ててスマホに尋ねたところ、どのレコードかまで教えてくれました。便利な時代ですね。

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楽譜を見ながら聴いてみると、どうやらAメロからBメロに移ったあたりで私の意識に割り込んで来たようです。(次の楽譜の5小節目から)

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ショパン ノクターン Op.9 No.3

Bメロのコード進行はキーをCとすると、 GonB | Am7 | D7onA | GM7 | CM7onG | F#m7-5 | B7onF# 〜でしょうか、どうやらこのD7から移行したGM7とそれに続くCM7の響きにやられたようです。なんてロマンティック!

楽譜を見て気づいたことには、アルペジオを構成する4つの音のうち2つの音が次の小節でも維持され、2つの音だけが変化するように書かれているんですね(上の楽譜の赤い矢印)。なんだかこの作品の秘密をちょっと覗いたような気がして嬉しくなりました。小生は楽器が弾けないので楽譜を分析するのも苦手ですが(間違ってたら教えてください)、こういった小さな発見があると苦手意識も多少は改善されるんじゃないかと思います。

spotifyにはおびただしい数の同曲の録音があるのだけれど、聴いた限りで件の箇所が腑に落ちるのはフランソワ盤だけです。それだからと言って良いのか、今まで他の演奏でこの曲を聴いてピンと来なかったのかもしれません。作曲家や楽曲との相性もありますが、演奏者との相性というのもありそうです。フランソワ盤のおかげで、少しショパンに近付けたような気がしています。

 

そういえばクラシック音楽を聴き始めたころ、シベリウス交響曲第2番のオーマンディ盤を買ったときには何がなんだか分からず、小遣いを損したような気がしてずっと苦手だったのですが、その後ラジオで交響曲第7番(バルビローリ盤)を聴いて改心したこともありました。不思議なことに第7番が気に入ると自然に第2番も気に入るようになったので、人間とはいい加減なものです。(それはお前だけ?)

 

♪ 嫌い あなたが大好きなの

嘘よ 本気よ♪

〜『小麦色のマーメイド』より

 

〈追記〉

漫画家ジョージ秋山氏の追悼記事中に"敬して遠ざけてきたのは苦手意識によるところが大きい。"という記述があって、やはり苦手というのはそういうことなんだろう思いました。時間が経つと消去されそうな記事なので、少し引用させてもらいます。

頭でっかちの私などでは到底語れないほど、ジョージ秋山の作品世界は深い。

 それはプリミティブな語りであり、プロットの構築やキャラクターの造形といった洗練されたコンテンツ作成のノウハウから逸脱した、もっと本源的なものだ。神話や口承文学に近いものであり、安易な計算ずくの作劇術では醸し出せないエネルギーをはらんでいる。

 だからこそ、「頭でっかちの読み手」である私は、ジョージ秋山の作品を敬遠し、一方で再読せずにおられない引力を感じてきたのだろう。

 ジョージ秋山は「語りえないもの」を語れる、稀有な作家だった。

追悼「語りえないもの」を描いた天才:ジョージ秋山『捨てがたき人々』(新潮社 フォーサイト) - Yahoo!ニュース