ラジカセ以上ハイファイ未満

ミニコンポにつないだLS3/5Aで聖子ちゃんを聴く

もうひとつの未完成 〜 ルクー:ピアノ四重奏曲

長い梅雨が明けて暑くなり始めたこのタイミングで、なにも暑さ倍増するような曲を取り上げなくても良いのではないかと思いつつも、素敵な録音を耳にしてしまった以上、やっぱり書かないわけには行かなくなりました。やや早めのテンポで駆け抜けながら、輝くような青春の甘さと痛みを、情熱をもって十全に表現した快演だと思います(特に第一楽章)。エアコンの効いた部屋でお聴きください、きっと胸が熱くなるから。

open.spotify.com

 

夭折の作曲家ギヨーム・ルクー(1870-1894, ベルギー)は、印象派風の甘美なバイオリン・ソナタで知られていますが、その他の曲はあまり聴かれていないようです。しかし、一部には熱烈な愛好家がいるとも言われ、特に第二楽章までしか書くことのできなかったピアノ四重奏曲(ダンディ補筆)にはそれなりの数の録音があります。もう長いこと更新されていませんが、例えばこちらのサイト。ここで紹介されている録音11種類のうち、ブルーメンタール盤とグレトリーQ盤を除いて残りの9種類は聴いたことがあります。印象もそこに書かれているのとさほど違いはなくて、リシュナ盤、キム盤、イザイアンサンブル盤、ドーマスQ盤が好みに合っていたと思います。いずれもspotifyに無いのが残念ですが、逆に上のサイトでは紹介されていない3種類の録音が聴けます(シュピラー盤のみダブリ)。

 

一番味の濃いのがこれ。少々胃もたれするかも。

open.spotify.com

 

二番目が上にあげたFrith SQ盤で、三番目がこちら。カロリー八割ぐらいな感じかな。

open.spotify.com

 

これは薄味です。ここまで低体温だと、逆にこういうやり方もあったかという面白さがあるかもしれません。

open.spotify.com

 

スコアはこちら。

https://imslp.org/wiki/Piano_Quartet_(Lekeu,_Guillaume)

 

しかし、この第一楽章の構成はどうなっているのでしょうか、素人にはさっぱり分かりません。似たようなテーマが色々と現れて、新たな主題なのかそれとも変奏なのか区別が付かないし、三分の二ほどのところにある全休止*1の後、ここから再現部かと思えば出てきたのが第一主題じゃなかったり。作曲中にまさか24歳でお迎えが来ると思うはずもなく、とりあえずアイデアを全部ぶちこんでおいて後から彫琢するつもりだったのかもしれません。

"前の二つより、もっともっと美しくなる"とルクーが語った幻の終楽章は、もしかすると、もはや人間が聴いてはいけない領域の美しさだったのかもしれません。なおさら聴いてみたいけど。

 

<追記>

レコード芸術7月号の特集は「未完成作品の魅力」だったようですが、バックナンバーの目次にはルクーの名前は見当たりませんね。未完成作品リストの中には紹介されていたのかしら。

https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=042007

 

 <追記2>

コメント欄で教えていただいたアンリ・コック等の演奏を、Goodies から出ているピアノ四重奏曲78CDR-3039とバイオリンソナタ78CDR-3005で聴いてみました。SPからの板起こしで、ノイズリダクションしていないということで、かなり盛大なスクラッチノイズが入りますが、youtubeにあげられているものに比べると楽器の音はリアルです。 https://www.youtube.com/watch?v=wrUJrKzm1mo 

ピアノ四重奏曲は1933年、バイオリンソナタは1932年の録音なので、今から約90年前、作曲からは約40年後の演奏です。今年松田聖子がデビュー40周年ということを考え合わせれば、この40年という年数はまだまだ作曲当時の演奏方法や雰囲気を留めているのではないかと思います。一番良くわかるのはポルタメントを常用した甘美なフレージングで(これより数年後に録音されたメニューイン盤ではそこまでやっていませんが)、作曲者はこういう演奏を想定して書いたのだろうと推測できます。それから音感の良くない私が言うのもなんですが、ピッチ感覚も現在の演奏家とは幾分違う感じがします。総じてルクーの耽美的な面の勝ったこの演奏を聴いているうちに、いつしかスクラッチノイズも気にならなくなり音楽に夢中になっていました。

また、オーディオ評論家の元祖のひとり上司小剣(1874年生ま-1947年没)がレコードを購入していた時期と重なっていて、もしかすると彼の千二百枚のコレクションに含まれていたかもしれず、愛機ブランスイツクの音を想像すると感慨深いものがありました。今回、ルクー演奏史上で重要な録音に接することができたのは貴重な体験であり感謝に堪えません。

*1:この全休止に至る長い繰り返しのクレッシェンドはちょっとブルックナー交響曲を思わせます。